滅菌精製水とは?通常の精製水(医療用・工業用)・超純水との違い

滅菌精製水とは?通常の精製水(医療用・工業用)・超純水との違い

精製水(純水)の中にもさまざまな種類がありますが、医療用の目的で使用される精製水の中には滅菌精製水があります。

滅菌精製水とは、精製水に残存するごく微量の不純物を、さらに滅菌することによってつくられます。通常、医療器具を洗浄したり薬を作ったりするために使用されるものです。

今回は、滅菌精製水の概要について紹介するとともに、一般的な精製水や蒸留水との違いを確認していきます。精製水の種類や特徴に関する知識を深めていただけたら幸いです。

医療の現場で使用される滅菌精製水とは?

医療の現場で使用される滅菌精製水とは?

滅菌精製水は、主に医療の現場にて使用されている精製水です。

ここでは滅菌精製水の特徴や概要について紹介します。

滅菌精製水の概要~特徴と使用用途

滅菌精製水とは、精製水を滅菌することによってつくられます。

精製水にわずかに残っている微生物などが除去されていることから、無菌の医薬品の製造やコンタクトレンズの洗浄液、医療器具の洗浄など、状態の管理が厳しく要求される医療の現場で主に用いられています。

滅菌されているとはいっても、空気に触れると空気中の不純物が溶け込んでしまうため、開封後は基本的にすぐに使用(すぐに使用できない場合は改めて滅菌処理を施す)しなければ、水質に変化が生じてしまいます。

使用される場面がほとんど医療用のため、一般向けに市販されているケースは珍しく、医薬品会社などが病院や医院などに卸しています。

そもそも精製水を滅菌する必要はあるの?

精製水の定義は「水道水や地下水に対して何らかの処理を施して純度を高めたもの」です。「何らかの処理」とは、ろ過やイオン交換、紫外線殺菌などを施すことであり、これらの処理によって不純物(細菌やミネラル、消毒剤など)の大部分が除去されます。

この時、精製水(純水)とはいっても完全に不純物が除去されるわけではなく、わずかながら精製水の中にミネラルや細菌などの不純物が残存します。

世界的医療機器メーカーである「メルク」のお役立ちサイト「M-hub」には、以下の例えが用いられています。

「水道水と精製水の不純物量の比較」

水道水と精製水の不純物量の比較

参照:サイエンス系お役立ちメディア「M-hub」

  • 50mプールを水道水で満たした場合:不純物の量=ドラム缶2本分
  • 50mプールを精製水で満たした場合:不純物の量=グラス1杯分

厳密にいえば、精製水の製造方法(不純物の除去の仕方)などについては細かな規定がありません。従って、精製水は商品によって処理方法や純度が異なります。「グラス1杯分」というデータもあくまでイメージとしてお考え下さい。いずれにせよ、精製水の中にはわずかながら不純物がまだ残っているということになります。

※医療用精製水と工業用精製水

精製水は、医療用と工業用(一般向け)に分類されます。精製水の中で、日本薬局方の基準を満たしているものは「医療用精製水」として、それ以外の精製水は「工業用精製水」として分類されることになっています。

しかし上述の通り、精製水には製造方法などの細かな規定があるわけではなく「工業用」とされているものでも医療用精製水と同様の製法で作られていて、品質的にも同等のものが少なからずあります。

実質的には、医療用か工業用かは商品の分類上の違いのみとなっている場合もあります(全ての工業用精製水が医療用精製水と同等の製法で作られているというわけではありません)。

⇒日本薬品方の「精製水」の定義はこちら(889p)

ミネラルと細菌:滅菌精製水と超純水

精製水に残存している不純物の種類を大きく分類すると、ミネラル(イオン=ミネラルが水に溶け込んだもの)と細菌があります。滅菌精製水は、残存している細菌を限りなく0に近づけるための処理がされた精製水ということです。細菌が水分中に残存している場合は、医療機器を通じて患者の方に混入してしまったり、薬品や医療機器の品質に影響を及ぼしてしまったりするリスクがあります。

そうしたリスクを取り除くために、滅菌精製水が使用されます。

※ミネラルと細菌を両方とも除去して、理論上は限りなく純水に水に近い状態の水のことを「超純水」といいます。

  • 50mプールを超純水で満たした場合:不純物の量=小さじ1杯分

滅菌精製水の注意点:注射用水としては使用不可!

滅菌精製水の注意点は、注射用水としては使用不可であるということです。

注射用水は、注射液の製造のために使用する水のことを指します。注射用水として使用するためには「発熱性試験に合格すること」という日本薬局方で規定されている基準を満たさなければなりません。

※注射用水(注射用蒸留水)=精製水を滅菌し、発熱性試験に合格したもの。精製水や滅菌精製水は注射用水としては使用不可です。

滅菌精製水の位置づけ(精製水・超純水・水道水との比較)

改めて、滅菌精製水の位置づけについて確認しておきます。それぞれの特徴を改めて記載すると以下のようになります。

●水道水
厚生労働省のガイドラインによって定められた水道法にて、細菌やミネラル、消毒液などの基準値が設定されています。基準値は、飲用などとして使用した場合に、健康上の被害が生じないことなどを目的として規定。安全に飲めること、安定的に供給されることが大きな目的となっている分、塩素系の消毒剤や、残存する細菌・ミネラルなどが含まれています。

●精製水
水道水などをろ過や紫外線殺菌、イオン交換などの処理をおこなうことで水の純度を高めたものです。大半の不純物が除去されますが、わずかにミネラルや細菌が残存します。工業用機械の洗浄、塗料の希釈液、車のバッテリー液、手作り化粧品など、幅広い用途にて使用されています。

※「コンタクトレンズ用精製水」として市販されている精製水も通常はこちらの一般の精製水です。コンタクトレンズの付け置き容器の洗浄やつけ置きなどには利用できるものの、装着前のすすぎには適していないとされています。

●滅菌精製水
精製水に対して滅菌処理をすることによりさらに純度を高めたものです。特に、医療器具やコンタクトレンズの洗浄、製薬などのために用いられます。

●注射用水
精製水を滅菌処理して、さらに発熱性試験に合格することにより、注射液として使用可能な水のことです。

●超純水
限りなく純粋な水に近づけたものです。半導体製品の製造など、可能な限り不純物の混じっていない水が必要とされる場面で使用されます。

まとめ

滅菌精製水を中心として、精製水の種類や不純物除去に関して紹介しました。

滅菌精製水は、一般的な精製水を滅菌することにより、コンタクトレンズや医療器具の洗浄や、製薬などにも使用できるようにした精製水のことです。こうした処理を施すことにより、水分中の細菌の分量を大きく減らすことができ、安全に医療機器や器具を使用したり、機器の洗浄をしたりすることが可能になります。

滅菌精製水を使用する際の注意点は、2点あります。注射用水としては使用できないことと、開封後はすぐに使い切ることです。開封後は空気中の細菌や不純物が溶けこんでしまうためです。せっかく滅菌されたものを購入しても、精製水の選び方だけではなく、保存や保管、廃棄の方法についても注意しましょう。